私は稲瀬に笑顔を向けたあと、タオルをカバンにしまい肩にかけた。

その間…カバンをもって稲瀬を待っている様子の永井からの視線が、痛いほど伝わってきた。


また、なにか文句言うつもりかな?

永井を警戒しながら、中庭を出ようとする稲瀬についていくと…





「じゃ俺、帰るわ」




すると、永井はそう言って稲瀬に笑顔を向けた。



え、帰るの…?

今まで稲瀬を待ってたんじゃないの?





「…帰んの?」

「ああ!引っ越しの荷物の整理しなきゃだから、今日は帰るよ」

「そっか。じゃあな」

「おう!また明日~」


…………。

ニコニコと手を振り、走って帰っていく永井を、私はしばらく見つめていた…


引っ越しの荷物の整理あるなら、さっさと帰れば良かったのに…

どうして今までいたんだろ。

謎だ、あいつ…




永井を不思議に思いながら、稲瀬と下駄箱で靴を履き替え、駅まで並んで歩く…




「ねえ…あのさ…」


永井のこと、思いきって稲瀬に聞いちゃおうかな。



「諒のこと?」

「あ…なんでわかったの?」

「わかるよ」

「…そう」


稲瀬の顔は、何でもお見通しと言いたげな顔。




「諒は小学校からの友達で、俺の一番古い付き合いなんだ」

「小学校から?」

「そ。中学も学校一緒で仲良かったんだけど…俺がこっち引っ越してから、たまにしか会わなくなった」

「あ、そっか」


稲瀬が元々いたのは東京だから、永井はそっちに残ったんだ。




「あいつは東京の高校がつまんないからって、親に頼んで俺のいる高校に転入してきたらしい…」

「じゃあ、東京からわざわざ通ってんの?」


あ、でもさっき…

引っ越しの荷物がどうのって言ってたか!





「大学生のいとこの兄ちゃんが、ここら辺で独り暮らししてるから、居候させてもらうんだって」

「ふーん…よっぽど稲瀬がいない学校生活が、つまんなかったんだね」


転入してくるほどだから、やっぱりあっち系だと思っちゃうな…(笑)





「…また変な想像してるだろ?」

「へ?」


呆れ顔の稲瀬。



「なんでわかるのさー」

「お前すぐ顔に出る。わかりやすいよ」

「そうかなぁ」