『聞いて驚け。……さっきまで、亜希と電話してた!』


「はあ!?」


 布団をはねのけ、ガバっと起き上がった恭也。


 慶の一言にしばし唖然とし、何も言えなくなる。


『羨ましいか? いいだろ~』


 羨ましいどころじゃない、そんな気持ちで慶の喉を鳴らす笑い声を聞いていた恭也の目は、さっきと打って変わって見開かれていた。


 慶の口から出てきた“亜希”という名前は、好きな子の名前だ。


 受験があるからということで、最近はメールすらしていなかった。


 いつの間にそんなに仲良くなったのかと、恭也は心の中で思う。


 実は、恭也と慶の関係は友人だが、今はライバルとも言える。


 さっき名前が上がった女の子に、ふたりは恋をしているから。


 その女の子のことを好きだということは、はっきりと口に出して話したことなどなかったふたり。


 お互いがお互いの気持ちに気づいてはいたが、それをあえて口に出すこともなかった。


 こうしてはっきりと、優劣を見せつけられたのは、恭也にとってはじめてのことだった。


 早く電話を終わらせて寝るつもりが一転。


 恭也はその話を詳しく聞くしかなくなった。