「ねえ、涼」


 亜希が静かにそう言った時、窓から流れ込んだ風が、優しくカーテンを揺らした。


「何?」


 ゆらりゆらり、揺れるカーテンを見ながら、返事をする。


「あのさ、高校最後の夏休みだから、勉強も忙しいと思うけど一緒に遊びに行こうね?」


 おどおどとした口調で言う亜希の方を向けば、その目は真っ直ぐにあたしをとらえていた。


 その瞬間、なんだかいろんなものが遠くに見えた。


 亜希の後ろに見える沈みゆく夕日とか、その光が照らし出す教室の光景。


 黒板に残されたままの落書きや、乱れた机に椅子。


 そんな当たり前で尊い日々。


 なんだかそれらをすごく大切に感じた。


 こんなふうに一緒にいられるのは、卒業までの残り少ない時間なんだね。