自分の境遇を恨んで、過去だけを見てきた。


 母親が亡くなっていると知って涙を流した日もあった。


 だけど、それが宮下さんという存在に出会うための代償だったとしたら。


 俺は過去も、辛い境遇も、全部を愛せる気がした。


「……そういえばあのリコリス、毎年6月に咲いていたんですよ。それで今、気が付いたんですけど、私が佐伯先輩を好きになったのって、6月、なんですよ」


 ああ、やっぱりこれは運命だ。


 嬉しそうに、目を潤ませて泣きながら微笑む宮下さん。


 俺も自然と笑みがこぼれた。


 だって、俺が学校で始めて宮下さんを見つけたのも、6月だった。


 偶然視線を上げた時、ギャラリーの柵から身を乗り出す姿を見て、あの時の子だとすぐにわかった。


 1個下に可愛い子がいるって聞いてたし、名前も知ってた。


 初めて会ったあの時、彼女の母親がたった一回きり呼んだ“アキ”という名前。


 それと同じだったから、確信が持てた。


 ギャラリーにいる人の中に彼女の姿を見つけて嬉しくて、近づきたかったけど、周りから騒がれてる俺が彼女に近づくことなんてできなかった。


 彼女だって、人気があったし。


 だけど、偶然に偶然が重なって、彼女が落としたお弁当をきっかけに、学校で正面から向き合うことができた。


 それも、彼女がギャラリーにいると知ってから1年が経った、6月のこと。