だけど、素直になんて教えてあげられない。


 初めて宮下さんを見た日から今日まで、俺は彼女を忘れられなかったんだから。


 その時から好きだったこと、彼女は知らなくて。


 自分の方が先に俺を好きだったと思い込んでいる彼女に、少しだけ意地悪をしたくなった。


「……リコリスは、ちゃんと咲いた?」


 俺が言えるのは、これだけだ。


 さて、宮下さんはなんて答えるのかな。


 鈍感な宮下さんはきっと、なんで俺がこんなことを聞いたのかなんて気づかないだろう。


「え、リコリス、ですか? 今年もきれいに咲きましたよ」


 ほらね、やっぱり彼女は気づかない。


 なんで俺がリコリスの花が宮下さんのもとにあるのかを。


 あの時、俺がとった行動。


 それは、彼女の小さな手のひらに、リコリスの生きた茎をのせたっていうこと。


 泣き止ませる方法がわからなくて、小さい子をあやす時に飴玉をあげるような、そんな気持ちで持っていたリコリスを彼女に託したんだ。