私の大好きなシトラスの香りがすごく近くにある。


 変わらないその香りに頬をすり寄せると、彼は少しだけ身じろぎした。


「あ、すみません。嫌でしたか……?」


「いや、そうじゃなくて。俺からこんなことしといてあれだけど。……まあ、うん。なんでもないから。気にするな」


 そんな言葉に、私は首を傾げた。


 でも、よくわからないけど、このままでいていいみたい。


 私の腰と背中に回る手にさっきよりもぎゅっと強く力が込められて、引き寄せられたから。


「……俺たちは、俺たちのペースでいいよな」


「え?」


「いや、こっちの話」


 見上げた、そこには。


 私を見つめる優しい表情を浮かべた彼の姿。


「恭也、くん。今日は会いに来てくれてありがとう、です」


 改めて言うのは、なんだかすごく恥ずかしくて。


 彼の暖かい胸に顔を埋めながら言うと、頭の上から微かに笑う声。


「……また、会いに来るよ」


 そんな言葉とともに、またきつく抱きしめられた。