体育館12:25~それぞれのみる景色~


「あの、じゃあなんて呼んだらいいですか……?」


「そんなの、自分で考えて」


 冷たく言われたけど、それが照れ隠しなのはすぐに分かった。


 だって、耳が少しだけ赤くなっていたから。


 クールとか、冷たいとかってって言われていたのが嘘みたいに、佐伯先輩の表情はよく変わる。


 それが少しおかしくて、でも嬉しくて。


 佐伯先輩のこと、なんて呼ぼうかななんていろいろ考えた。


 私にとって佐伯先輩はずっと“佐伯先輩”のままだから、急に呼び方を変えるのは難しいし照れ臭い。


 だけど、ずっと呼びたいと思っていた。


 そして、言いたいことがあった。


「えっと、恭也くん……?」


 佐伯先輩には似合わないかもしれない、そんな呼び方。


 彼は、どんな反応をするだろう。


 こんな呼び方は嫌とか、言われたりしちゃうかな。


 でも、名前で呼びたかった。


 体育館で先輩を見ているとき、隣りにいた女の子が佐伯先輩の名前を呼んでいるのを聞いて。


 サエさんが呼び捨てで呼んでいるのを聞いて。


 私もそう呼べたらいいのになって、ずっと思っていたから。