「あの、じゃあなんて呼んだらいいですか……?」
「そんなの、自分で考えて」
冷たく言われたけど、それが照れ隠しなのはすぐに分かった。
だって、耳が少しだけ赤くなっていたから。
クールとか、冷たいとかってって言われていたのが嘘みたいに、佐伯先輩の表情はよく変わる。
それが少しおかしくて、でも嬉しくて。
佐伯先輩のこと、なんて呼ぼうかななんていろいろ考えた。
私にとって佐伯先輩はずっと“佐伯先輩”のままだから、急に呼び方を変えるのは難しいし照れ臭い。
だけど、ずっと呼びたいと思っていた。
そして、言いたいことがあった。
「えっと、恭也くん……?」
佐伯先輩には似合わないかもしれない、そんな呼び方。
彼は、どんな反応をするだろう。
こんな呼び方は嫌とか、言われたりしちゃうかな。
でも、名前で呼びたかった。
体育館で先輩を見ているとき、隣りにいた女の子が佐伯先輩の名前を呼んでいるのを聞いて。
サエさんが呼び捨てで呼んでいるのを聞いて。
私もそう呼べたらいいのになって、ずっと思っていたから。



