「さ、恭也くん……?」


 恐る恐るといったふうに後ろからかけられた声は、昨日も電話口で聞いた彼女の声。


 俺の名前を呼ぶのにまだ慣れないのか、それとも恥ずかしいのか、前みたいに“佐伯先輩”なんて言おうとしたのがわかった。


 だけど、俺の下の名前をちゃんと呼び直す彼女は、やっぱり俺のツボを完璧に押さえている。


 ああ、久しぶりだ、この感じ。


 無意識に頬がゆるむ。


 心臓はいつもより速いスピードで動いているけど、それが心地いい。


 締まりのない顔で振り返り、数歩先にいるであろう彼女を見る。


 ……俺が、余裕な心持ちでいられたのは、この時までだった。


「恭也くん、来るの早いね! まだ20分前だよ?」


 高校の時とは違う、敬語の抜けた話し方。


 高校時代、何度慶を羨んだことか。


 ……いやいや、そんなこと今はどうでもいい。