【恭也Side】


 ……例えば、“運命の出会い”が本当にあるとしたら。


 それは、きっとあの時だろうなと思う。


 今からもう3年以上も前のその時のことを、腕の中で泣き続ける彼女を見ながら、ひっそりと思い出した。


 ―――3年前、中学3年生の夏。


 俺は目の前の彼女、宮下さんと出会った。


 慶の家が経営している、花屋のすぐ近くで。


 今でも当時のことはよく覚えている。


 忘れられるはずがなかったんだ。


 その頃から慶のところの花屋でバイトさせてもらっていて、ちょうどその日は慶に頼まれたリコリスを運んでいた。


 言われたところにそれを取りに行って、花屋へ戻る途中の電信柱の根本。


 小さな後ろ姿の女の子が座り込んでいるのに気が付いた。


 なにやってんだと思いつつ、目が離せなかった。


 表情が見えるくらい近づいた時、彼女が何をしていたのかわかったんだ。


 彼女の視線の先には、季節外れの黄色いたんぽぽ。


 真剣な顔で、でも見守るような優しい顔で。


 目が、離せなかった。


 なんていうのかわからない、今までで感じたことのない気持ちだった。


 その顔は、我が子を見つめる母親のような表情で。


 俺はそんなあったかい気持ちとか今まで感じたことなんてなかったから、そんな表現をするのはおかしいかもしれないけど。


 だけど、彼女の横顔は母性に満ちているようで、その時思ったんだ。


 “この瞳に見つめられてみたい”って。