「水谷さん、どうしてここに?」礼二が訊くと玲は「その質問の前に、となり、いいですか?」

「あ、うん、どうぞ」

玲は礼二の隣りに腰掛けると「杉箕橋は私の通学路だよ。今ちょうど歩いてたら偶然仲間くんをみかけたんだよ」といった。

礼二はそうなんだ、と声には出さなかったが何度も頷いて理解を示した。

「それより仲間くん。すごい難しい顔してなかった?」

玲は夕日を眺めながら訊いた。礼二の顔を敢えて見ないようにしているようだ。

「そ、そうかな?」

「うん。気難しい顔してたよ」

「そっか」

「なにか悩み事あるなら、私で良かったら聞くしね」

この時、玲は礼二に顔を向けていった。彼女は本気で心配している表情を浮かべていた。

「ありがとう」

そういうと礼二は単純に玲の優しさが嬉しかった。

それと同時に自分のさもしい気持ちが心を打ち、純粋に心配してくれる玲の顔を直視できなかった。

少し沈黙が二人の間を流れた。玲はなにか礼二の言葉を待っているかのように黙していた。

「あのさ」

礼二が口を開いた。

「森永ってどういう女の子なのかな?」彼は訊いた後、こんな抽象的な質問に答えるのは難しいかなと考えた。

玲は、ん~、と少し唸って「一言でいうと勇敢かな」

「ゆうかん?」勇敢という里子に似つかない単語に訝しさを覚えた礼二が自然と彼女の言葉をくり返していた。

「うん。とっても心が強い人だった」

「だった?」礼二は過去系の言葉に疑問を投げた。

「そう。去年まではね」

去年?つい一年ほど前までは里子が勇敢な女の子だった?まさか。あの陰気な雰囲気をもつ森永里子が。

にわかに信じられない話だと礼二は思った。

だが夏休みの里子には、明るい性格だったであろうという片鱗を覗かせる部分は確かにあり、

笑顔さえみれなかったが、ノリのよさ、場の空気を読むなどの配慮も見受けられた。

「私ね」

玲は遠くを見ながら呟いた。ふいに礼二は彼女の横顔を見た。

「昔いじめられてたんだ」

突然のカミングアウトに、礼二は彼女の肩口辺りに視線を落とした。