「手拭いを落とされた人間以外には、あの鬼は霞みたいなものだ」

「霞?」

「実体がない、というのかの」

 斬れないってことか。
 ……ん?
 ということは……。

「じゃあ、僕の後ろに手拭いが落とされないと駄目ってことか!」

「そういうことだ」

 うわっ……。
 怖っ!

「しかも、そうなれば一刻以内に勝負を付けねばならん」

 僕は口を大きく開けて、目を見開いた。
 ここにきて、えらい問題はっせ〜い。
 刀を持ったこともない中学生が、二時間以内に屈強な鬼を斬らねばなりません。

 ……出来るかっ!!

「何だよ、それ! あり得ない!」

 当然ながら憤慨する僕に、佐馬ノ介は表情も変えない。

「死にたくなければ、鬼を斬ることだ」

「……何で……佐馬ノ介が斬らないんだ……。鬼を追ってるんだろ?」

 今更ながら、身体が震える。
 腹が据わった、と思ったけど、やっぱそうそう簡単に腹なんて据わらないよ。
 ああ、剣道でもやっとくんだった。