「宗士。そろそろ鬼がやって来るぞ」

「お隣さんを喰いに、か」

 僕はこれでも、いろいろ考えてるんだ。
 鬼を斬るなら、どういった状況が一番いいのか。

 ここ数日でわかったことは、どうもあの鬼って、手拭いを落とされた人以外には、見向きもしないんだよね。
 何だろう。
 あの手拭いを目指して、鬼は来るような。

「その通りだ」

 不意に佐馬ノ介が口を開いた。
 って、なに人の頭の中読んでんだよ。

「やはり、宗士はただのガキじゃないな。わしが見込んだだけのことはある」

 ……それはどうも。
 あんたに見込まれなければ、僕は普通の夏休みを満喫出来てたんだけどね。

 いや待てよ。
 もしかして、佐馬ノ介に呼ばれなければ、僕はほんとに濡れ縁から落ちて死んでたかも。
 どっちにしろ、夏休みは謳歌出来なかったかもだな。

「鬼は、あの手拭いを落とされた人間しか見えぬ」

「へ〜。じゃあ、お隣さんのところに鬼が行く後をつけて斬れば簡単じゃん」

「それが、そう簡単ではない」

 ……そうだろうね。
 我ながら良い考えだと思ったけど、そんな簡単なことなら、佐馬ノ介がとっくに仕留めてるよな。