第三章

ついにその時が来た。
優也先輩が大好きな宇羅にも言っておこう。
そう思い、朝登校してる途中…
「ねえ宙、今日優也先輩来るらしいね!」
先に言われた。でもなんで宇羅が…?
「あ…うん、知ってる…」
宇羅も私が知っていたことを不思議に思ったのだろう、少しの間考え込んでいた。
だが、少し経つとまあいっかとつぶやいて考えるのをやめたようだ。
なんで宇羅も知っていたのだろう…
いや、なんで優也先輩は宇羅にも知らせたんだろう…
その時から、宇羅には不思議な感情をもつようになった。
だがその感情は決して表に出してはいけないと宙にはわかっていた。

その日の部活は、仮入部に向けての準備などだった。
あー、楽器の準備とか確認とかで遅くなっちゃった…。
宇羅も花蘭も終わってないのに帰っちゃうんだから!
倉庫を最後に使った人は鍵を閉めることになっている。
「これでいいのかな…?」
カチャン。
よし、そうつぶやいて急いで音楽室へ戻ろうとしたところで…
私は、足を止めた。
階段のところに優也先輩がいたのだ。
「あ…!」
「久しぶりだね、宙ちゃん」
「お久しぶりです…」
「これ」
先輩はボタンを差し出してきた。
「制服のボタン。ほかの人にはあげてないから。だから、ほかの人には絶対内緒だよ?これを僕だと思ってね」
私は何も言わずに受け取ることしかできなかった。
「先、音楽室行ってるね」
私は立ち尽くしていた。
だが、すぐにみんなを待たせていることに気づき、急いで音楽室へ向かった。

優也先輩はほかの人たちと楽しそうに話している。
そのグループの中には…
宇羅もいるようだ。
また、あの感情だ…
部長に鍵を手渡す。
部長は受け取ると、
「聞いてください」
「はい!」
そして、明日の連絡等が終わり挨拶も済んだ。
宇羅と帰ろうと思ったが、優也先輩と離れる気がなさそうだったので一言だけかけて帰ることにした。
「宇羅、先帰ってるね」
宇羅は、楽しそうな様子で振り返った。
「え、宙も先輩たちと話しながら帰ろうよ!」
その時、優也先輩と目があった気がした。
「いや、いいよ…先帰るから!」
私はその場にいることができなかった。
その場から走りだし階段を駆け下り…
いつの間にか宙は一人で家の前に立っていた。
はあ、はあ…
とりあえず、家に入ろう。
いつものように、自分の部屋に直行する。
なぜか落ち着いたと思った心の中では宇羅に対してのあの感情であふれていた。
携帯を確認する。新着メール一件…
なぜか見る気にはならなかった。
でも無視をするわけにもいかず、見ることにした。
優也先輩からだ…
「今日はごめんね…?僕は会えてうれしかったよ!また会えるといね…」
私は宇羅への感情を抑えることができなかった。
「何がごめんですか!私にはわかりませんよ!あなたが会えてうれしかったって私は全然うれしくなかったですよ!もう会いたくないです!もう来ないでください!」
送信。
…送信完了。
そこで、ハッと我に返った。
「あ…!」
送信したメールを確認する。
嘘でしょ…?
そんな…
何も考えずに送信してしまった。
相手のことを考えずに送信してしまった。
そんな…
「先輩…ごめん」
携帯が光る。
新着メール…二件。
一件は宇羅、もう一件は…
見たくなかった。
差出人は予想できていた。
私はもう一件のメールを見なかったことにして、宇羅からのメールを開いた。
「宙、今日楽しかったよ!宙も先輩と帰ればよかったのに…でも、また今度来た時には一緒に帰ろうね!」
私は叫びたい気持ちを抑えて返信をした。
「ごめんね、今日は急いでたから…うん、次は一緒に帰ろうね!」
送信。
私は歯を食いしばった。
悔しい。
宇羅と優也先輩といたらどうなってしまうのだろうか…
いや、そうならないように逃げ出すだろう。
…こんなこと、考えたくなかったのに。
晩御飯の時間だ。
いや、もう寝よう…
今のことは忘れよう…
そう思いながらも、寝るまで今のことがずっと頭から離れなかった。