大谷にとって、猪瀬は憧れの存在だった。

いつか猪瀬のようなトップレスラーになりたいと、夢見ながらトレーニングを積んでいた。

そんな猪瀬と、まさかこんなに早く肩を並べて試合できる日が来るとは。

「どうする、受けてくれるか。尤も…」

猪瀬はニヤリと笑う。

「飯に誘ったのも、それが狙いだがな…ここの焼肉屋は高いぞ。若手の給料で払える額じゃない」

プロレス団体や養成所の練習生時代は、殆どが無収入だ。

合宿所や練習場などに住み込み、団体の雑用をこなす事で『食・住』の面倒を見てもらっている者も多い。

ようやく試合に出るようになったとはいえ、新人プロレスラーである大谷の収入は、月に数万円に過ぎない。