駅からだと、歩いて約10分程。
住宅地の間に並ぶ一角に、ブロック塀に囲まれた古めかしい建物が見えて来た。
「あそこが僕の住む家です」と前を歩くハルニレくんが指を差す。ブロック塀の切れ間に煤けた木の看板がぶら下がっている。風化して、黒ずんでいるけれど、そこには「やにれ荘」と学生寮だった頃の名が刻まれている。
その看板の下に取って付けたように、「田中」と何故か段ボールの切れ端にマジックで書かれてものが、張り付けられていた。
自作の表札?アーティストなんだから、もっとこだわっても良さそうなのにな・・・と思う。
石畳が寮の入り口に続いている。
2階立ての建物は確かに時代を感じる古さだった。今時珍しい塗炭屋根に木造の壁は、看板と同じく、長年、雨風にさらされ黒ずんでいた。
映画に出て来る田舎の分校とか、ドキュメンタリーに出て来る過疎化した村の公民館とか、そんなイメージ?
丘の向こうにはビル街が広がっているのに、まだこんな建物があったんだと感心する程だった。住人共通の玄関口は建物の左端に設けられていた。
共同の玄関で、そこで一旦、靴を脱ぐ。建物の右側には結構な広さの庭が広がっていた。
青々とした芝が蔓延り、洗濯物が風に揺られている。ブロック塀に沿って緑の茂った垣根が続き、物干し竿の近くには八重桜が見事な花を咲かせていた。庭の隅々に植えられた花や木が、季節毎に楽しめそうだ。
庭を抜けて建物の右側を奥に進むとハルニレくんの祖父母が住む一軒家があるのだそうだ。
「どうぞ、上がって下さい」
ガラガラと音を立て、玄関の引き戸を開けたハルニレくんが、中へと促す。曇りガラスの重みのある扉の横には、錆びついた郵便ポストが取り付けられていた。

