「狙われるんじゃないかってハルニレと距離を置いてる奴とかもいたけどさ、あいつなんか、いつものほほんとしてて平和だし、ゲイの人ってお互いにそっち系だって解るらしいじゃん?だから、女の子が好きな男には興味ねぇんだろって思って、俺は普通に接してたけどさ」
「まぁ、確かに中性的な雰囲気はあるよね。細いし、髪も伸びてるし、小柄だし・・・防犯で守ってくれるかって言われたら不安だけれど、夜這いされることはないんじゃない?」
いいんじゃない?だったら、一緒に住んでもと結芽はころりと意見を変えた。
確かに見た目、明らかに草食系男子だけれど、まずはどんな所か見てみないと話を進められないし・・・そんな話をしてる最中にハルニレくんが戻って来て、さっきまでの話は何となく誤魔化されてしまったのだ。
「本宮さ~ん」
私の名前を呼ぶ、か細い声に顔を上げると、昔ながらの商店街の雑踏の中から、上下スウェットに健康サンダルをつっかけたハルニレくんが登場した。
もしかして寝起き?って思うくらい、頭の寝癖が音楽室にあるベートーベンの肖像がみたいにすごくて、フレームの大きな黒ブチメガネを掛けていた。全体から醸し出るゆる~いオーラは今日も健在だ。
「遅れてゴメンなさい」
はぁはぁと息を切らして、目の前に立つハルニレくんは、両手をパチンと顔の前で合わせて、遅れたことを詫びた。駅の時計を確認すると、15分の遅刻だった。まぁ、許容範囲内ではある。
「別に大丈夫だけれど、ハルニレくん寝起き?」
夜通し雑誌に載せる挿絵を描いていたのだと、ハルニレくんは説明してくれた。一旦、絵を描き始めて、ノってしまうと、時間を経つのも忘れて、自分の世界に入り込んでしまうらしい。ふと気づいた時には、絵は完成していて、自分は床に転がって寝ていたらしい。
商店街を通り抜けると、住宅地に出る。この辺の土地はなだらかな勾配になっているらしく、住宅地は駅の周りと比べると小高い丘の上に建っている。緩やかなカーブを描き、上へと続いているガードレールに沿って、歩く。

