「篠山さん」




再び名前を呼ばれ、振り返る。

すると、黒縁眼鏡の奥の鋭い瞳と視線がぶつかった。

さらにヒートアップする鼓動。

顔も焼けるように熱い。

だけど、奏は冷静で。




「また、メシ作りに来てくれますよね?」




その言葉に返事が出来なかった。





行きたい。

そして、奏の喜ぶ顔が見たい。

そして、当然のように奏はあたしを抱く。

だけど……

それでいいの?

奏のことが好きだと気付いてしまった今、セフレなんて嫌だよ。

セフレってのは、お互い気持ちがないから成り立つ。

そういうものだと思うんだ。







「嫌だよ」




あたしは下を向き、震えながら言っていた。




「あんたに振り回されるの、もう嫌だ」





そうだよ。

これ以上関係を持つと、余計に辛くなる。

独占してしまう。

やっぱり、あたしにセフレなんてものは無理だ。





「そうですか」




そう言って奏は、少し悲しげに笑った。

あたしはその顔から目が離せなかった。






なんでそんな顔をするの?

そんなに泣きそうなの?

あんたがそんな顔をすると……

ますます離れられなくなるじゃん!