会社での関係も相変わらずだった。
奴は黒縁眼鏡で会社に来て、ひたすら黙って仕事をした。
そして時々……
「篠山さん。
昨日の議事録作りました」
何事もなかったかのように、あたしに話しかけたりした。
声をかけられる度に飛び上がるあたし。
何だか恥ずかしくて緊張して、その顔すらマトモに見ることが出来ない。
ただ下を向いて、
「ありがとう」
そう言うあたしを、海崎さんは心配そうに見ていた。
きっと、海崎さんはあたしが奏に虐げられていると思っている。
確かにそれは間違いないのだけど……
あたしたちの間には、もっと深い秘密がある。
その秘密に動揺しているのはあたしだけで、奏は堂々としていて。
何だかイラつく。
ずるい。
なんであたしだけ、こんなに緊張してビクビクしているんだろう。



