レディ・メアリの屋敷から戻ってきたエリザベスは、上機嫌とは言えないにしてもそれほど機嫌が悪いというわけでもなかった。
「リチャード・アディンセル? まあ、悪くはなかったわよ。今までお見合い相手と較べると、ぐーんと素敵な人だったかも」
「……ワイズマン伯爵のご令息はたしか……」
「結婚前に愛人作る宣言されたわよ。まったく、頭にきちゃうわよね。私が大陸帰りだからって、何やっても許されると思っているのかしら」

 今までのお見合い相手と違い、リチャード・アディンセルには好感を抱いたらしいとパーカーは判断する。
 その判断は、続くエリザベスの言葉で裏付けられた。

「彼、大陸に興味があるんですって。私にいろいろ聞きたいみたいなことを言っていたわよ……何だか、私でいいのかしらって思っちゃうくらいいい人だった」
「……では」
「わかんない。だって、まだ真面目に考えてないんだもの……でも」
 にっこりとエリザベスは微笑む。
「リズって呼んでもらってもいいかなって思うくらいには素敵な人だったわ」

「それはようございました」
 パーカーの胃のあたりを、ちくりとした何かが横切る。けれど、パーカーはそれについては無視することにした。
 幼い頃から使えてきた主が幸せになってくれるのならそれでいい。なぜなら彼は執事なのだから。