なぜ、わざわざ、爽さんを。



「…め」



なんで、六十億もいる人の中から、よりによって爽さんを。



「おらっ、棗。聞いてたか?」

「わっ、なに」

「なんだよ、肉見つめてぼぅっとして。部内戦終わったらビーチバレーしようぜって話してたんだよ」

「ビーチバレー? やるやるっ、やります!」


つい考え事をしてしまって、それを悟られまいと無理にはしゃいだら、不自然に声が上擦ってしまった。

バカだ。こんなちょっとやそっとで考えていたことがバレるはず、ないのに。


「おしっ、じゃあ決定な!」


太陽の光が、きらきらと海に反射して、すごく綺麗だ。

白い砂浜もコバルトブルーの空も、完璧だ。完璧なのに、どこかやりきれない。


それは、爽さんと汐莉さんを見ているときの気持ちに似ている。


あまりに完璧すぎるものを目の前にすると、壊すのは到底不可能だと、嫌という程思い知らされる。