しばらくの間そうしていた私は、やがて心を決めるとゆっくりと目を開けた。
緊迫する私とあの女の様子を複雑な表情で見つめる父に視線を向けて、ほんの少し微笑む。
ひさしぶりに穏やかな笑みを浮かべた私を、父はとても不思議そうに見つめ返した。
その顔が何だか可笑しくて、ついふふっと声をたてて笑ってしまう。
「奏葉?」
突然笑い出した私を見て、父が困ったように眉尻をさげた。
私は鞄を持って突っ立っているあの女をちらりと見ると、困り顔の父に視線を戻して口を開いた。
「ねぇパパ。してあげたら?中谷さんと、結婚式」
そう告げた瞬間、父と彼女が大きく目を瞠る。
「奏葉……今、なんて……?」
冗談だと思ったのか、父が目を丸くして私に聞き返す。
私は呆れたように笑うと、もう一度言ってあげた。
「パパと中谷さん、ちゃんと籍入れて、結婚式あげなよ。じゃなきゃかわいそうじゃない。きっと中谷さん、綺麗な花嫁さんになると思う」
「奏葉……」
父が小さく震えながら私の名前をつぶやく。
でもそれきり、何も言葉が続かないようだった。



