蒔田 光輝。
俺はその名前を確認すると、奪い取ったスマホを床に落とした。
「ちょっと!」
奏葉が俺を睨み、落ちたスマホを拾おうとする。
でも俺は、奏葉がそうできないように彼女の肩を掴んで押さえつけた。
「いったい何?離してよ」
動きを阻害された奏葉は、怪訝そうな顔で俺を睨みつけてきた。
だけど俺には、掴んだ奏葉の肩を離す気なんてなかった。
「どこ行ってたんだよ?」
奏葉に向かって放たれたその声は、自分でも驚くくらい、冷たく低かった。
奏葉が俺の声を聞いて、一瞬だけ驚いた顔をする。
でもすぐにしかめっ面に戻ると怪訝そうな目で俺を睨みつけてきた。
「何の話?」
「とぼけんなよ」
奏葉見下ろしながら、俺は意地悪く鼻で笑う。
「十一時頃こそこそ家を出て行って、たった今帰ってきたとこなんだろ?」
俺が冷たい声でそう言うと、奏葉はしかめっ面のまま口を固く閉ざした。
それは、奏葉が俺の尋ねたことを肯定したことを意味している。
そう思った俺は、唇の端を持ち上げると皮肉っぽくにやりと笑った。



