「大海君?」

その日は紗葵君と二人で
飲みに行った大樹君を
迎えに五駅先の
居酒屋に来ていて
大樹君を探していると
喧騒の中で名前を呼ばれ、
振り向くと
一音ちゃんがいた。

『久しぶりだね』

一年半振りの再会だが
紗葵君は気付いていない。

「今日はどうしたの?」

『大樹君を迎えに来たんだ』

その言葉に
キョトンとした顔をした。

そういえば、
“結婚”して一緒に
暮らしてることを
一音ちゃんは
知らないんだった。

『今、俺たち
高沢家で
四人で暮らしてるんだ』

この後されるであろう
質問を先読みして
言葉を続けた。

『大樹君と紗葵君、
俺と葵君はそれぞれ
付き合ってて
“結婚”したんだよ』

まくし立てるような
早口で説明すると、
ますますキョトンとした顔をした。

批難されるだろうか?

気持ち悪がられるだろうか?

「そうなんだ、おめでとう」

予想に反して、一音ちゃんから
祝福の言葉が返ってきたのは
はっきり言って意外だった……

『気持ち悪いとか思わないの?』

思うよりも先に口が動いた。

いくら友人だからといっても
男同士で“結婚”とか
言われたら引かないか?

「思わないよ」

間髪入れずに返ってきた。

「紗葵君と大樹君のは
少なからず驚いたけど
二人が幸福ならいいの。

大海君と葵さんは
何となく
気付いてたから
驚かないし
偏見もないしね」

いい子だなぁ。

紗葵君が
好きだったはずなのに
素直に幸福を
祝ってあげられるなんて
なかなかないよな。

冷やかしや
お世辞じゃないことは
顔を見ればわかる。

一音ちゃんは
本当に心から俺たちの
“結婚”を祝福してくれている。

話していると、
大樹君を見つけたらしい
紗葵君が戻って来て
初めて一音ちゃんが
居ることに気付いた。

「久しぶりだな」

先に口を開いのは大樹君。

「そうだね」

紗葵君と手を
繋いだままだと気付いたけど
一音ちゃんからは
見えない位置だったから
あえて指摘しないことにした。

「そうそう、
“結婚”したんだぜ。
だから、紗葵は今、
高沢じゃなくて
中里なんだよ」

普段、喧嘩することが
多い二人だけど
仲がいい証拠なんだよな。

「そうなんだってね、
今、大海君から聞いたよ

ちょっと驚いたけど
四人共おめでとう

葵さんにも宜しく
私、友達と約束しての
すっかり忘れてた

またね〜」

慌てて去って行く
一音ちゃんの笑顔が
ぎこちなく感じたのは
気のせいだったのか
それとも……

『大樹君探すのに
結構時間かかってたけど
そんな奥の方に居たの?』

質問は紗葵君にだけど、
大樹君の顔を見て聞いた。

「あぁ、
一番奥の席に大学時代の
友人たちと居たんだ」

『で、紗葵君と
一緒に来てるけど
その友人たちはいいの?』

いくら“嫁”が迎えに
来たからって友人を
ほったらかしに
するような大樹君じゃない。

「大丈夫だ
あいつらには
最初っから迎えが来たら
抜けるって言ってあったんだ」

確かに、何時に
迎えに行くとも
何時に迎えに来てとも
言われなかったから、
適当に来たわけで……

『それならいいんだけど
何の前触れもなく
迎えに来ちゃったからさ』

三人で居酒屋を出て
夜風に当たりながら
駐車場まで歩いた。

二人は手を繋いだままで。

家に着いて玄関を開けると
何故か葵君が立っていた。

「だだいま
何かあった?」

俺より先に紗葵君が
不思議そうな顔をして聞いた。

『実はな……』