校舎から一歩足を踏み出すと、ぶわっと風が吹いて桜の花びらが一斉に舞い上がる。
その花吹雪の奥に、もう見慣れた後ろ姿が目に映る。
証書を持つ手に、自然と力が入った。
——最初は、好きになんてなるはずないと思ってた。
外面はいいのに、あたしの前でだけは口が悪くて。
それなのにふとしたときに見せる優しさが嬉しくて……。
この人に出会ってあたしは、きらいだったはずのこともいつの間にか好きになっていた。
そういう自分に、いつの間にか、なっていた——。
「約束、覚えてくれてますか……?」
綺麗な黒い髪が光に透けて、はちみつ色みたいに見える。
振り返った顔は意地悪な笑みじゃなく、柔らかく優しくて。
「忘れるわけないだろ? ばーか」
そう言いながら彼はあたしの顎をすくいあげて、ずっと待ち望んでいたとびっきりの愛を、そこにくれた。
「だいすきです、桐島さん」
待っててくれてありがとうと、強く強く苦しいくらいに抱きしめた。
「俺も、茉菜のことが好きだよ」
「……好きって、はじめて聞いたかも」
「だってこの日のためにとっておいたから」
そう言って彼はまた、意地悪そうな笑みを浮かべるんだ。
【END】



