それは、ある日の放課後。


 忘れ物を取りに、急いで教室へと戻った時のことだった。


 締め切られているドアに手をかけた瞬間聞こえてきた声に、あたしは動きを止めるしかなかった。


『松本~! ぶっちゃけさあ、杉浦とはどこまでいってんの?』


『ぎゃはは! それ聞いちゃう? とか言って俺も気になるけど!』


『つーかさあ、最近全然話してなくね? もう別れたわけ?』


『別れたんならさあ、杉浦けっこう俺のタイプなんだけど、アタックしてもいい?』


 下品な笑い声と、下品な内容。


 バカなあたしでも、そういうことは雰囲気でわかる。


 唇を噛みしめながら、あたしはその場を動けずにいた。


 悠斗はなんて言うんだろう。


 あたしたち、まだ付き合ってるよね?


 そう言ってくれるよね?


 だけど、あたしのそんな期待は、次の瞬間にはぼろぼろに打ち砕かれたんだ。


『あ、茉菜? 付き合ってるっつーか……。どっちにしろあんな女やめとけよ! バカだし~! バカがうつっちまうぞ!』


 悠斗の言葉のあと、聞こえたのは大きな笑い声だった。