茶色い革靴の紐を結ぶ、グレーのスーツが丸くなった背中には、しわのひとつさえ見当たらない。


 そんな後ろ姿に呟くように言う。


「……元カレ、実はちょっとだけ桐島さんに似てるんです。いままで生意気な態度とってごめんなさい。あと、話聞いてくれてありがとう。ちゃんとけじめつけてきます」


 勉強しながらも、やっぱり悠斗からのメッセージが気になって仕方なかった。


 それに、いい加減あたしもいつまでも過去のことを引きずっていたくない。


 桐島さんに話をして、そう思えたから——。


 気を付けて帰ってくださいと早口で付け足して、あたしはそのまま足早に二階にある自分の部屋へと続く階段を駆け上がった。


 そのあたしの勢いに、珍しく「お、おう」なんてどもりながら返事をした桐島さん。


 その声を背中に受けたのを感じたあと、そのままの勢いで部屋のドアを開けて思いっきりベッドに飛び込んだ。


 ぎしっといやな音が鳴ったのも気にせずに、伏せたっきり見ていなかったスマホの画面を立ち上げる。