男性が、本をカウンターへ持ってきたのは、15分後。


「あの〜、これお願いします」


本は、2冊あった。


「はい。お預かりします。まずは、こちらの用紙に記入していただけますか?
その後で、カードにもお名前をお願いします」


「はい。すいません。時間過ぎちゃいましたね…」


男性は用紙に記入しながら、苦笑いで言った。


「大丈夫ですよ。良い本が見つかりましたか?」


「勉強したいものだったので…」


難しそうな経営の本だった。
勉強するのか…と感心してしまった。


男性の名前は、太田宗輔(おおたそうすけ)さん。


「太田様、こちらのカードは、本を借りる時に必ずご提示ください。ご返却日は2週間後となっております」


「わかりました」


「ご返却は、こちらのカウンターにお持ちになるか、外に返却口があるので、そちらに入れてください」


「ありがとう、のっぽさん」


え?


今なんと?


また、言われてしまった…


よく利用する子供たちやお年寄りには、いつもそうやって呼ばれているけど…


同世代の人から呼ばれるのは、学生以来…


私は、何も言えずに、黙り込んだ。


「じゃあ、また来ます。のっぽさん」


また…やめてほしい…


太田さんは、笑顔で帰っていった。