5限目が終わったばかりの教室に杏子と健一が入ると、クラス中の視線が痛かった。


―――まるで犯罪者・・・。


みんなの視線など気にしていないといった様子で杏子は自分の席に戻った。


「はぁ〜」


ため息を一つつくと、隣の黒谷を一瞬キリッと睨み、すぐに笑顔を見せた。


「さっきはいいもの見せてくれてありがとう。お陰で全ての謎が解けたよ」


「・・・・・・・」


黒谷は、顔を引きつらせて、杏子には何も言うことはできないようだった。


「ねぇ、眞中くんとは小学校が一緒やったん?」


美穂は授業中、ずっと考えていたことを聞きたくてしかたがないといった様子で、杏子に聞いてきた。


「そう、でも気付かないなんて、失礼よな・・・あんなに助けてもらったのにさ・・・・」


「もしかして、杏子の忘れられない人って?」


「そう。昔の眞中くん」


その発言に、美穂も驚いているようだった。


そして、隣の黒谷からの視線も感じていた。



「あんた達、付き合ってるん?」


「えっ?!」


突然の美穂からの指摘に、杏子は言葉を返せなかった。


「やっぱり美穂もそう思ったやろ?」


待ってましたと言わんばかりに、佳祐が杏子たちの元にやってきた。


「えっ?違うん?」


「俺も今聞いたんやけどさ・・・なぁ?健一?」


「うるさいな」


健一は邪魔くさそうに佳祐から顔を逸らすと、杏子たちの会話を聞いていた黒谷の方へ視線を向けていた。


「残念やったな。計画は失敗やったな」


健一の言葉に黒谷は悔しそうに下唇を噛んだ。


「でも付き合ってないんやろ?まだ俺にもチャンスがある」


「黒谷くんもしつこいね。そんなんじ岡崎ちゃんに嫌われるよ。って、すでに嫌われてるか!」


―――前田くんって、顔に似合わずきついこと言うんやな。


杏子に少し引き気味で見られているのに気付いた佳祐は、美穂に近づき「怖かった」とかわいく言って見せた。


―――いやいや、もう遅いですから・・・ばれてますし。


杏子は、心の中でツッコミを入れた。


「結局、どうなったんよ!」


進まない話に苛立ち始めた美穂が結論を催促した。


「結局は、こいつは、今の俺より、昔の俺が好きなんだと」


「杏子、あんたデブ専やったん?」


「違うし・・・私は、昔の優しくて、楽しいガッくんが好きなんよ!」


「ガッくん?!」


―――しまった!つい言ってしまった。


杏子が気まずそうな顔をして、健一の顔を見ると、『俺には関係ない』といった顔で目を逸らした。


―――こいつ〜!!


「杏子、ガッくんって??」


興味津々といった様子で乗り出して聞いてくる美穂の顔は輝いていた。


「あのね・・・」


口を開こうとした瞬間チャイムが鳴り、それと同時に授業が始まった。


「早く席に着けよ〜!」


「杏子、眞中くん、放課後は覚悟しておくんやで」


美穂の事情聴取まで、残り50分。