黒谷は、夕日が差し込む保健室のベッドに静かに眠る杏子の側に座った。

まだ健一の温もりが残る丸椅子に。

健一が保健室から出て行き、バタンとドアが閉まる音がした途端、杏子が目を覚ました。


「岡崎さん!」


杏子は、薄目を開けぼんやりしていた。

しばらくして、黒谷と目が合うと、目を大きく見開いた。


「く、黒谷くん?私・・・?」


「階段から足を滑らせて・・・落ちて来たところを・・・・・・俺がキャッチしたんや・・・」


「えっ??黒谷くんは大丈夫?」


「あぁ、大丈夫」


記憶のない杏子に嘘の事実を与えた。


「俺、成瀬先生に連絡するね」


黒谷は、そう言うと、電話の方に向かい、成瀬に内線を掛けた。


「あの、岡崎さんが目を覚ましました」


『あれ?その声、眞中くんじゃないわね』


成瀬は、すぐに電話口の相手が健一でないことに気づいた。



「あっ、3年5組の黒谷です」


『そう。まぁ、いいわ。すぐに戻るわ」


それだけ言うと、成瀬は内線を切った。


電話が終わって杏子が寝ているベッドに戻った黒谷は、杏子が見つめてい水色のチェック柄のハンカチに目をやった。


杏子らしい優しい色だと思った。


「かわいいハンカチやね」


「あっ・・・うん」


杏子は、曖昧な返事をしたが、黒谷は気にしていなかった


「成瀬先生、すぐに来てくれるて」


杏子はうつむいたまま頷いていた。


「うん」


しばらくして「お待たせ、岡崎さん、大丈夫?」と、声をかけながら入ってきた。

黒谷は、少し気まずくて目をそらした。

成瀬はベッドに近づくと「ゆっくり立ってみて」と言い、杏子の手を引いた。


成瀬は、すぐに杏子の様子を見た。


杏子は、立ち上がると眉間に皺を寄せ動きが止まった。


足を痛めていた。痛みに耐えることができないようで、再びベッドに腰を下ろしていた。


「大丈夫?捻挫かな?見せて」


優しく杏子の足を持ち、「湿布しておこうか」言い、処置箱をあさりはじめた。


処置箱から湿布を取り出し、手際良く杏子の足首に貼り、処置を終わらせた。



「明日、頭や体が痛かったり、足首が腫れてきたら病院にいくこと。わかった?」


「はい」


成瀬の言葉に杏子はゆっくりと頷いていた。


「じゃぁ、あなた、岡崎さんを送ってあげてね」


「わかりました」


机に向かって何かを書いている成瀬の背中に向かって答えた。


二人は、ゆっくりとした足取りで駅に向かった。


家まで送るよと言ったが、どうしても首を縦に振ってくれなかったので諦めることにした。