天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 栄子主任は詩織ちゃんを諭しながら、私に向かっても注意した。

「いい? 基本的にうちの店は、目立った部分にジュエリーを身につけるのも禁止よ。我々はあくまで、お客様に提供することに徹底したプロなんだから」
「えー!? えー!? なんでですかー!? それっておかしくないですか!? 宝飾店の店員なのに!」

 ぶーぶー食い下がって抗議する詩織ちゃんに、栄子主任が噛んで含めるように根気よく説明する。

「お客様がご購入する宝石よりもグレードが高いと嫌味だし、低いとみすぼらしく感じるでしょ? だからダメなの」
「えー!? えー!?」
「ダメったらダメなの」

 ふたりの応酬を横から眺めながら、つくづく感心する。
 栄子主任、さすがだな。詩織ちゃんのゴリ押しパワーに対して全く動じていない。
 まるで幕下力士の突っ張りを堂々と受け止める大関力士みたいな栄子主任を尊敬していたら、晃さんが私をじっと見ているのに気がついた。
 どうしたんですか?と目で問いかけると、彼は小首を傾げて物言いたげにしている。
 何を聞かれているのかピンときた私は、そっと指先で自分の胸元をトントン叩いた。

 大丈夫。エメラルドは、ここですから。

 それを見た晃さんは安心したようにニッコリと微笑む。
 私も栄子主任と詩織ちゃんにバレないように、こっそり口元を緩めてみせた。

「それではこれで失礼します。また来週に来ますね」

 そう挨拶して店を出ていく晃さんの後ろ姿を見送りながら、私の心はとても満ち足りていた。
 ふたりだけの秘密が、できたんだ……。