栄子主任は詩織ちゃんを諭しながら、あたしにも向かって注意した。


「いい? 基本的にうちの店は、目立った部分にジュエリーを身につけるのも禁止よ。我々はあくまで、お客様に提供する事に徹底したプロなんだから」

「えー!? えー!? なんでですかー!? それっておかしくないですか!? 宝飾店の店員なのに!」


 ぶーぶー食い下がって抗議する詩織ちゃんに、栄子主任が噛んで含めるように根気よく説明する。


「お客様がご購入する宝石よりもグレードが高いと嫌味だし、低いとみすぼらしく感じるでしょ? だからダメなの」

「えー!? えー!?」

「ダメったらダメなの」


「えー!?」と「ダメったらダメ」の繰り返しの応酬を横から眺めながら、つくづく感心する。

 栄子主任、さすがだな。詩織ちゃんのゴリ押しパワーに対して全く動じていない。

 まるで幕下力士の突っ張りをドーンと受け止める大関力士みたい。


 その時、晃さんがあたしをじっと見ているのに気が付いた。

(どうかしましたか?)と無言で問いかけると、彼は小首を傾げて物言いたげにしている。

 ……あぁ。


 何を聞かれているのかピンときたあたしは、そっと指先で自分の胸元をトントンした。

 大丈夫。エメラルドは、ここですから。

 それを見た晃さんは安心したようにニッコリと微笑む。

 あたしも栄子主任と詩織ちゃんにバレないように、こっそり口元を緩めてみせた。


 挨拶して店を出ていく晃さんの後ろ姿を見送りながら、あたしの心はとても満ち足りていた。

 ふたりだけの秘密。そんな気がして。