それにも理由がある。
それは・・


「私は今まで通りに過ごしたいのです!」


「脚下。」


「!」



かちん。



「・・・。」


「・・・。」



船室には航海日誌にペンを走らせる音と、船が波を越えて行く音が響く。

そして外からは我が友である、ロンとヴァイスの楽しそうな声。

私が外に出たいのは彼らと共に過ごしたいからだ。



「何処で海軍や情報屋が見てるかわからねぇんだ。むやみに外に出て、情報を渡すこともない。」


「今は居ないじゃありませんか!」


「馬鹿か。肉眼じゃ見えなくたって、世の中には望遠鏡っつう便利なもんがあるんだよ。お嬢さん?」


「望遠鏡ぐらい知っています!人を馬鹿にする物言いは止してくださいまし!」



私は"箱入り娘"と馬鹿にするアルの物言いには、腸煮えくり返る思いをしていた。
そのせいで自然と声を荒げてしまう。

きっとこんな光景をオルコット家を知る人間が見たら、開いた口が塞がらない程の衝撃を受けるだろう。

それぐらいオルコット家の人間は高貴な一族。

私はそんなことも忘れ、アルに食いかかっている。



「へぇ。オルコット家の箱入り娘も乱すもんなんだな。」


「!」



意地悪く微笑むアルバート。
彼の言葉に正気を取り戻し、恥ずかしさで顔が熱くなる。

それでも私は断固として意見を曲げようとはしなかった。



「・・ハァ。ここまで食い下がらねぇ女は面倒以外なにものでもねぇな。可愛げねぇ。」


「アルに可愛いと思われなくても結構です。」


「・・チッ。何でそこまで外に出たがる??」


「わ、私は今まで通りロンやヴァイスと一緒に過ごしたいのです!」


「・・気に入らねぇなぁ。」


「え?」



航海日誌にペンを走らせるていた手を止めて、ブルーの目だけを私に向けるとアルは立ち上がった。

今日のアルもとても綺麗だった。
白いシャツを黒いパンツに入れて、黒いブーツを履いている。
それだけでも彼を引き立てるには充分で、妖艶なオーラを纏って人を惹き付ける。


いつの間にかアルは私の腰を掴み、その腕で力強く引き寄せた。