十月に入った、ある日の掃除時間。
春奈は教室掃除の担当で、箒で教室を掃き清めていた。
そこに翼が、何処から集めてきたのか、大量のゴミが入った袋を複数持って、春奈の前に立った。


「長山、コレを全部捨てに行って」

「分かった。捨てに行くね」


春奈は掃除用具を片付けるロッカーに箒を仕舞ってから、笑顔で翼が押し付けたゴミを全部受け取り、捨てに行くべく教室を出て行った。
翼は怒ってるような、泣きだしたいような微妙な表情で、春奈を無言のまま見送った。
春奈に対してどんなに冷たい態度で接しても、どんなに苛めても、翼の唯を奪われた悲しみと寂しさは伝わる事は無いし、晴れる事も無い。

春奈は勘違いしていた。
春奈自身は気付いてないが、それとなく翼に心惹かれていた春奈は、"翼に頼られて嬉しい"と感じてしまったのだ。
だからこそ、春奈は笑顔で、翼に代わってゴミを捨てに行った。

春奈も翼も、互いの思惑と想いには気付かない。




その日の放課後、校庭では様々な運動部が練習に励んでいた。
日が落ちるのはかなり早くなり、最終下校時間も三十分早くなった。秋の大会も近く、サッカー部も一つでも多く勝ち進む為に、今日も熱心に練習をしていた。
春奈は教室に一人だけ残って、窓から校庭を眺め、ジャージ姿でサッカーの練習に打ち込む翼の姿に見惚れていた。
春奈はそれでもまだ、自分の中にある、翼への想いに気付く事は無い。





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