九月も月末に近付いた、ある日の夜。
翼は自室で、勉強机に置かれた血で汚れたボロボロのヌイグルミを手に取り、強く抱きしめた。

八年前のバレンタインに、あの遊園地のゲームコーナーで、ヌイグルミを取って唯に渡した時の、唯の笑顔を思い出す。
しかし、その唯はその笑顔の直後に亡くなってしまい、後にはゲームコーナーで取ったヌイグルミが、血の染みで汚れて遺った。

翼は知らず知らずのうちに、涙を流していた。
その涙が翼の頬を伝い、服に冷たい染みを作っても、翼は気付く事は無い。




同じ頃。
静華は自室で、古い野球ボールを丁寧に磨いていた。

八年前のバレンタインに、あの遊園地のイベントコーナーで、静華と一緒にイベントが始まるのを待ちながら、浩太が野球ボールを弄んでいたのを思い出す。
しかし浩太が、その直後にこの野球ボールを遺して亡くなってから、どんなに洗っても磨いても、ボールの縫い目に入り込んでしまった血の汚れが落ちる事は無かった。

静華はどうにかして血の汚れを取ろうと、ボールを磨く布に力を入れる。
しかし、磨く布がボロボロになっても、磨く静華の指が真っ赤になっても、縫い目に入り込んでしまった、血の汚れが取れる事は決して無い。





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