しばらくの無言が続く春奈に、翼は畳み掛けるように声をかける。


「…早く戻らないと、美術の先生だけじゃなくて、たまたま通りかかった先生にまで、怒られるかもしれないよ。それじゃ、怒られ損だろ?」

「……分かった。じゃあ、戻る」

「よし、じゃあ早く行こう」


納得したらしく立ち上がった春奈を確認して、翼は歩き出した。
後から翼に追いついた春奈は、そっと歩く翼の顔を盗み見た。
しかし、春奈のその視線に、翼が気付く事は無かった。翼は振り返らない。




その夜、春奈は自分の部屋のベッドで眠っていた。
そこに、プラスドライバーを持った浩平が、静かに春奈の部屋に入ってきた。
そのまま浩平は春奈に近付き、プラスドライバーで眠る春奈の後頭部を開けて、小さなチップを取り出した。




浩平は研究室のパソコンで、春奈の頭部に入ってたチップのデータを確認していた。
パソコンの液晶画面を覗き込んでいた浩平は、急に頭を抱えだした。ガタンと音を立てて、浩平は机に突っ伏す。
パソコンの液晶画面には、エラー原因として、机に広がっていく血の染みの動画が表示されていた。

愛の怪我が、アンドロイドの春奈に、何らかのエラーをもたらしたのだ。





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