ちぇー、と苦笑を見せながら手をブラブラと動かす。

その手に自分の手のひらを合わせる玲奈。

「それでも、しっかり頼まれた事をやるのね。

そういうの、素敵だと思うわ。」

いきなりの誉め言葉に驚きつつも、綺麗なお姉さんに手を触られて悪い気がするはずもない。

咲滝は笑顔で

「あざっす」

と応えた。

玲奈はその反応に満足げに頷くと

「それに、貴方の手は人の為になるわ。

大事にしてね」

と微笑みを浮かべた。

そして時計に目を遣ると、中々の時間が過ぎている。

気づかなかった。

楽しい時間ってこういうモノかしらね。

そんな事を思うと、残っていたジンジャエールを飲み干して席を立った。

「ご馳走さま。お話ありがとう。

それじゃあ、今日はおいとまさせてもらうわね。

また機会があったら会いましょ」

言葉と代金を置き、踵を返す玲奈。

咲滝は頷いてカウンターから出ると、店のドアを開けた。

「また寒いときにでも来て下さいよ。

そんで俺に指名ちょーだい?

温かいジンジャエール、また淹れてやるから。」

名残惜しげに言うと、彼女と目線を合わせて微笑み合う。

そして玲奈が道の角に消えるまで、北風の吹く外で背中を見送った。

見えなくなったところで、ドアを開けて店内に戻る。

「…ご来店、ありがとうございました。」

誰に聞こえるでもない声が、ドアの閉まる音に掻き消された。

カランコロン。