泣く暇もなく―おれの人生は変わった。 最後に知る祖国の記憶は、白い砂浜。 息を呑んだ一瞬の事だった。 背後から沢山の手が伸び、痛みさえ感じない衝撃と、途方もない暗闇。 気がつけばもう海の匂いなどしなかった。 埃くさい場所、聞き慣れない言葉。 ボロボロの服を纏う、老若男女。 その時ようやく自分が拉致されたと気が付いた。 そしてここにいる人たちが、皆そうだという事に。 もう、故郷には戻れない。 終わりの見えない絶望の中、おれは更なる絶望を突きつけられる。