「…あ」


 嫌な予感がした。

 ちらりと振り返ってみたが、すでに先生のすがたはない。もう行ってしまったのだろう

 …ノートに見られてはマズいものを書いたまま提出してしまったかもしれない。

 いや、かもしれないではなくおそらくそうだろう。
 なんてミスをやらかしてんの、私…。

 無能な自分に腹を立てながらも、とにかくノートを奪還する方法を考える。
 先生がいない間に職員室へノートを奪いにいくか。いや、でも、先生がいない間っていつ? そもそもなんて言って職員室に入るの?

 いや、その「見られちゃマズいもの」は先生がシカトしてくれればいい話なのだが、あの先生のことだ。容易にスルーしてはくれないだろう。

「ああああああ…」

 うんうん言いながらぶんぶん頭を振り回していると、ある名案(?)が脳裏に浮かんだ。

「昼食の時間、なら…」

 ありがたいことに、この高校には食堂がある。
 申し分ない広さと申し分ない美味しさで午後の授業も満足に受けられる。毎日券売機には人だかりができる。

 確か先生のほとんども利用していたハズだ。今は3時間目が終わったところだったから、次の4時間目のときに先生がノートを見なければ、この件は何事もなく終わる。

 頼む頼む見るな見るなよと念じながら、私は四時間目のチャイムを待った。