「あ、」

 降りるときに、彼女も僕に気づいたようだった。
 この学校前で降りるのは僕らだけだから、当然かもしれないけど。

 見たところ、彼女も一年生なのだろう。走り去る電車の風が彼女の長い髪をゆらす。

「同じ学校…なんですね」

「…そうみたいですね。これからよろしくお願いします」

 そう言って彼女は軽く頭を下げる。
 これから先、登下校時に毎回会うことになる。関係は密接にしておいたほうがいいと僕の本能が言っていた。

「こちらこそです。あの、名前は…?」

 僕が言いかけたとき、突然彼女は「あ、」と慌てた声を出す。

「あ…しまった…!」

「…どうしたんですか?」

 尋ねながらも、彼女の様子がおかしいことに気づく。
 頬は真っ青でどこか落ち着かない。

「あ、あの…もしかしたら、電車に忘れ物したかも…」

「え、」

 瞬時に僕も状況を理解する。
 同時に再び彼女に質問を投げる。

「何を忘れたんですか?」

「生徒連絡表です…なくさないようにって、カバンじゃなくて手に持ってたんですけど…!」

 余計なくしやすい気がするけど、と思いながらも僕は首をひねる。

 生徒連絡表は生徒個人の住所や電話番号など、個人情報が書かれた紙である。昨日の入学式時にもらったさまざまな書類の類いだった。

 …でも、僕が電車の中で彼女の存在に気づいたとき、彼女は紙など手にしていただろうか。片手でつり革に捕まり、もう片手でカバンをつかんでいたように見えたが…。

「あああ、どうしよう…今日提出なのに…!」

 目の前の少女は慌てる。どうしようどうしようと連呼しながらも、カバンを肩から下ろしてしゃがみ、中を手探っていた。