「志田光! 無事保護しました!」

 シダヒカリ…? この人はいまヒカリって言った…?


 再び目を覚ましたとき、僕は建物の中にいた。

 警察署だろうか。


 もうろうとする意識の中で考える。

 なにがどうなっているのかは、なんとなく予想がついた。


 海で流され、行方不明になった男児が奇跡的に生きていた。

 という状況だろうか。


 本来なら志田光さんは死んでいる。
 今保護されたのは正式には志田光ではなく、七瀬昴の魂が入った志田光の体、である。


 しかしそんなこと、誰に言ったって信じてもらえるはずがない。
 そもそもタイムスペースのことは公には秘密だと、ハルカちゃんと約束していた。




 とにかく僕は、志田光を演じなければ…。

 でも彼は、どんな性格だったのだろう。もしかしたら一人称が僕ではなく俺かも…。
 その時点で怪しまれる。
 いやまさか別の人の魂が入ってるなんて発想はされないと思うけど…。

 うんうんと悩んでいる僕の体が、下に下ろされた。


「…ですが、記憶喪失かもしれません。名前も覚えていないようで」


 僕を背負っていた警察官は行った。


 …ん? そうだ。記憶喪失ということにしといたらどうだろう。

 なんだか周りをだますみたいでいい気持ちはしないが…、今はそうするしかない。


 するとふいに「お母さんの名前はわかる?」と警察官に顔を覗きこまれ、僕は緊張した。


「え…うん…わかりません…」


「おうちの場所は?」


「わかりません…」


 そのあとも警察官はいくつか僕に質問をした。
 といっても、嘘をつかなくても答えられる質問ばかりだったので、内心ほっとする。


 警察官が話しかけなくなったところで、僕はまた顔を強張らせた。


 …これから、どうなるんだろ…。