「君…おい、君!」


 体を揺さぶられ、ガクンと僕の意識は戻った。


 ハッとして起き上がった。ここは…、


「君! 名前は分かる?」


 見上げると、僕の肩を揺さぶっている人物が目に入った。


 青い制服に身を包んだ男の人で、心配そうな表情で僕の顔を覗きこんでいる。警察?


「え…名前…?」


「どこもケガはしてない? 痛くない?」


 警察官は、優しく僕に尋ねる。
 僕はまだ眠気でぼんやりする頭をぶるんと振った。


「あ…名前…ななせ…」


 じゃなかった! ちがう僕は七瀬昴じゃない。今のこの体では…。


「あ…えっとちがう…シダ…」


「シダ? わかる? 思い出せる?」


「え…う…わからないです…」



 そこまで聞くと、警察官は「記憶喪失かな…」とつぶやきながら立ち上がり、携帯を取り出して話し始めた。


 僕が――シダさんが無事だということを誰かに伝えているようだった。


 しばらくして警察官は携帯を閉じ、再び僕に向き合った。


「とりあえず、どこもケガしてないみたいだね。ちょっと君を安全な場所に連れてくよ」


 そう言って警察官は、僕に背を向けてしゃがんだ。おんぶということだろう。


 僕はされるがままに、その背中に乗った。

 とにかく怪しまれないためにも、今は「シダさん」を演じなければならない。


 よいしょ、と警察官は立ち上がった。



 再び襲う睡魔。こちらにもされるがままに、僕はまた眠りについた。