雨やどりのために大きな木の下に移動した。太い幹によしかかり、これからどうしようかと木々の葉を見上げる。

 緑の葉っぱは雨に濡れ、重そうにしずくを弾く。

 木々から断片的に見える空は黒く、どんよりと厚い雲を垂れ込めさせていた。


「そうだ、この子の名前なんだろ」


 僕はその、「借りている体」の持ち主を確かめる。シャツをうしろまえにして、名前が書かれてないかとロゴの裏をめくる。


「シ……シダ?」


 水でふやけ、ぼやけた文字は輪郭があいまいなものの、かろうじて読み取れた。

「シダ……シダさんかな…シダ…なんだろ」


 名字なのかな。下の名前は…ないか。


 あきらめ、シャツをもとに戻した。


 それにしても…なぜ服は濡れてないのだろう。波で流されたとしたら、もっともっとずぶ濡れでもよかったはず。


 さっかから感じていた違和感はこれだったんだ。


 ちなみにさっきから感じている違和感は、もうひとつ。

 自分の声。自分の声じゃない、自分の声。


 僕の――もとの七瀬昴の声ではなく、このシダさんの声だもの。声質がちがうのは当然。


「あーー……」


 試しに声を出してみるも、やっぱり違和感がする。


 それにちょっと笑って、僕は木の根本に座り込んだ。


 突然の睡魔に襲われる。


「ねむ……」


 寝ちゃいけないとわかっているけど、眠気は考える間も与えてくれない。


 ちょっとくらい、という気持ちで僕は目を閉じた。



 雨音が遠のく。同時に意識がなくなった。