「…う……」



 気づいたら、倒れていた。
 じゃりじゃりした感覚が顔に痛い。


 痛みに鼻をさすりながら立ち上がる。自分の体なのに、自分の体じゃないみたい。


「あれ、僕…」


 目が漠然とした景色をうつす。

 僕は誰だっけ。七瀬昴だったっけ。

 ここはどこだっけ。


 辺りを見渡した。一面は青い海。

 どこまでも続く水平線。水面に日影が反射したその風景に、僕は遠い目をして思い出した。


「ここって、」


 海、とつぶやいた。


 何年ぶりの景色か。


 ここは、僕が命を落とした海だ。


 ん? つじつまが合わない。じゃあなぜ僕は今生きている。
 いや「生き返った」?


 改めて自分の体を見つめた。
年は亡くなったときと変わらない。

 けど、見慣れないTシャツを着ていた。うすい水色のTシャツ。僕が覚えていないだけかもしれない。


 肉体として動く、8年ぶりの景色。


 疑問はたくさんあった。
なんで僕は生き返ったのか。タイムスペースはどうなったのか。

 兄ちゃんやカナメちゃんはどうなったのか。


 ハルカちゃんはどこに行ったのか。 




 …でも、悩んでいても仕方がない。

 僕は砂浜を走り出した。海とは反対方向に。


 すぐ後ろに街が見えた。
 何かわかるかもしれない。


 何か…。