タイムスペース

 もちろん、住所はおろか、ケータイなど聞いていない。


 しかしアテはある。僕は電話帳を開いた。


 愛崎、なんてそうたくさんある名字ではないだろう。


 町はハルカと同じ。そこの町名なら知ってる。


 一つに絞れた。ここで間違いない。


 まず僕は、電話をしようかと思ったが、なんとなく本能が敬遠した。


 家族の人に怪しまれるかもしれないし、僕とカナメはそんな密接な関係を抱いてるわけではない。

 まして学校でさえちがうのだから。


 となると、直接会いに行く、しかない。



 僕は朝食を食べ終えると、頃合いを図り、家を出た。



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電車に乗って約15分。


 いつも彼女や、ハルカが乗ってくる駅で降りた。


 背負っているカバンには電話帳が存在。
 裏側に付いている地図を頼りに、僕はカナメの家へ向かった。


 途中、公園があった。そこにあった時計は10時35分を指していた。


 時間配分はいいとして、改めて僕は辺りを見回した。

 ここは来たことがない。


 田舎と都会をたして2で割ったような外観。
 さっきの公園を通りすぎたあたりから、周りの景色が変わっていった。

 中央の通りは商店街になっていて、今日は土曜日ということもあり、たくさんの人々でにぎわっている。

 カナメの家へ行く場合、その商店街は通らない。道は中央からそれ、向かって左側。

 ゆるやかに幅広い川が流れる。朝日を反射し、光を水面にたたえている。

 カナメの家は郊外にあった。
 住宅街の一つ。


 橋を渡って川を越え、家々が密集する場所へ。


 町ではなく街だったか。なんか悔しい。


 途中、迷子になりそうになったり犬に怯えたりしながら、なんとかたどり着いた。


 表札に「愛崎」と書かれているのを確かめる。三角屋根の白壁の家。
 簡素な作りで、他の家々に埋もれそうな雰囲気に、僕はなぜか謙譲を覚えた。


 呼び鈴を鳴らす前に、なんとなく辺りを見回した。
 別に泥棒をしてるわけではないのに、と苦笑するもう一人の僕。


 そのとき、何か目に付くものがあった。