‡‡‡‡‡
そこは不思議な領域だった。
体が軽い。重力の弱い月にいるのは、こんな感覚なのだろうか。
再度来た。来られた。
タイムスペースに。
果てしなく続く灰色の世界。ふわふわと白い魂が辺りをただよう。
2日ぶり。再びここに来られたことに、僕は安堵のため息をついた。
おそらくこれも夢なのだろう。いや、タイムスペースは夢の中で来るのだろう。
辺りを見回し、緑に光るものを発見。前と変わらないすがたで浮遊し続ける彼のすがたがあった。
「昴」
呼びかけると「兄ちゃん!」と昴の顔がほころんだ。
ほとばしる緑の粒子を見つめながら、僕はやっと昴に聞きたかったことを尋ねた。
「そいえばお前、どうやってここに来たの?」
ここ、と灰色の地面を指差す。 といっても足元でさえも同じ景色なので浮いているように見える。
「んー…えっと…気づいたらここにいた」
「気づいたらって? 死ぬ寸前?」
なんか物騒な質問。
「海でおぼれたとき…すごく苦しくて、死ぬのかな、とか思ってたら、なんか突然体が軽くなったっていうか…。んで気づいたらいた」
「??」
んー…言っていることはよくわからないが…いわゆる幽体離脱というやつだろうか。
自分の魂だけが体から抜け、このタイムスペースへとやってくる。
どの魂もこういう設定なのだろう。
辺りに浮遊している魂はすべてそうなのだと思う。
ただ昴は例外なのだろう。光のすがたではなく、生前の肉体の形が残っている。
ということは、記憶は浄化されないのだろうか。ハルカは、ここは記憶を浄化する場所とか言っていたような…。
「そういえばお前は生前のこと覚えてるんだよな?」
「うん。みんな覚えてる。死んだときのことも」
それある意味ツラいよな…。
「ハルカにはいつ会ったんだよ」
「ハルカちゃんはもういたよ。兄ちゃんと同じ歳だから、僕が死んだときの兄ちゃんの歳と同じ」
