僕が不思議な出来事に接触したのは、悲惨な彼女の死を体験して数日たったある日だった。


 それまでの僕の日常は、穴だらけの日々だった。


 また、その出来事が夢だったことに僕が気づくのは、もう少しあとの話になる。




‡‡‡‡‡



 頬に、ふわりと軽い感触があった。


 閉じたまぶたの裏から、かすかな光が透けて見える。



 僕は目を開けた。



 僕の部屋ではない。布団も壁も床も、花柄の天井もない。



 灰色の世界。


 辺り一面、絵の具を塗ったくったような灰色。

 色のない海の中にいるようだ。
 いや、ちがうな。にごった海だ。
 その終わりのないような世界に、僕は横たわっているのだった。


 そしてそこに、不思議なものが浮いていた。

 最初はホタルかと思った。
 でも白い光だし、なによりホタルの体がない。


 無数の光だけが、ふわふわと浮遊していたのだった。


 さっきから僕の体や頬に触れていたのはこれだったのだ。


 瞳がうつす景色はどれも僕が見たことのない世界。
、それなのに、脳はまるでその世界を知っていたかのような素振りだ。

 驚きという感情がまるでない。


 漠然と光るそれらを見つめていたとき、ひときわ輝く何かを見つけた。


 なんだろう。無数の光を通してもはっきりと見える、緑の光。


 目を凝らした。そして、目を疑った。



「……!」



 何度も目をこすった。でも、間違いない。

 僕の脳も、まさかこれは想定していなかっただろう。
 顔に、驚きの表情を張り付けた。


 会いたかった。ずっとずっと。

 もう会えないと思っていたのに。大切な、大切な、僕の家族。

 最愛の―――




「昴…!?」




。。。