タイムスペース

「どうしよう…あいからもらったものなのに」


 あい、というのは友達の名前だろうか。女の子の顔は真っ青だ。


「あのこれ、さっきぶつかったときに落としたんですか?」


「…はい」


 女の子はそう答えたあと、「あ、でもあの人は別に悪くないですよ、私がしっかり持ってなかったのが悪くて…」とごにょごにょと付け足す。


「あ、電車来た」


 隣の女の子が右方を見つめる。


 いつもと何変わらない電車のすがたが見えた。


「ああ…どうしよう」

「かな、しょうがないって。諦めるしかないって」

「でも…」




 …そうだ。


 どうせ終わるなら、人の役に立ってから終わろうって。


 きっとそのほうが、後悔しない。



 だから迷いなんてない。この子の大事なものを取り戻す。





 私は線路に飛び降りた。





「…え…!?」



 女の子たちの驚いた顔が見えた。


「何してるんですか! 危ないですよ!?」



「いいんです。これ、あなたの大事なものなんですよね?」


「…けど…!」



 そんなことをしてまで取らなくていい。



 そうだろう。無理もないだろう。


 でもいいの。私は死ぬ気で、


飛び降りたんだから。



 私は拾ったキーホルダーを上に放り投げた。


 きっとあの子はあのキーホルダーをずっと大事にしていくだろう。

 大切なものを失う悲しみ。


 そんなの、経験したくないだろうから。


 私はあの子たちにとっては疎遠。「大切なもの」ではないから、

 なくなったって大丈夫。




 目の前に、電車が迫っていた。


 キキイィイィイィィィ―――――――



耳をつんざく轟音。人々の悲鳴。女の子たちの泣き声。




 いろいろ、ごめんなさい。


 でも大丈夫です。心配しないでください。



 電車の中、そういえば七瀬くんがいたことを思い出し、私は急に照れ臭くなった。



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