タイムスペース

　どうしようか。何をしたらいいだろうか。

　いや、答えは決まっているんだ。あの子の願いを叶えるため。


　私は拳を握り、決意した。


　七瀬くんには悪いけど…あなただってきっと一つの夢が叶うと思うの。だから悲しまないで。


　なんては、言えない。




　心地いい風が吹く早朝。人々は駅で電車を待ちながら、思い思いのことをして暇を潰している。


　うつむいてケータイをいじっている者、他の者と話す者、私のように何もせずにぼーっとしている者。


　ちなみにこの電車は、私や七瀬くんが通う高校以外の他の高校もいくつか通る。
　だから学生服がちがう子も少なくないわけで、今も私の斜め前で楽しそうに話している二人の女の子がいる。



　私は何気なく彼女たちに目をやる。かすかに聞こえてくる会話の声はとても楽しそうだ。


　一人の女の子が、バッグに付けているキーホルダーをもう一人の子に見せびらかしている。
　会話の中で「かわいい!」という声が聞こえた。


　女の子はバッグからキーホルダーを外し、手に持って楽しそうに見ていた。


　そのとき、一人の男性が彼女たちの前を横切る。
　女の子たちにぶつかり、かすかに彼女たちはよろめいた。

　男性はケータイに夢中なのか、彼女たちのほうを見もしないで「すみません」と通りすぎた。
　女の子たちは「す、すみません」と後ずさる。

　もっと周りに気を使えないものかと私は憤慨した。
　女の子たちは何も悪くないのに。

　彼女たちに目をやると、女の子の一人が、困った顔をして立ち尽くしていた。

　気になった私はなんとなく近づき、話しかけてみた。


「あの、どうしたんですか?」


　女の子たちは驚いた表情で私を見る。
　キーホルダーを持っていた女の子が口を開いた。


「…あの、大事にしてたキーホルダーが…」


　そう言いかけて、線路に視線を落とした。

　隣にいた女の子も私も、線路を覗きこむ。


　確かにキラリと光る何かが見えた。銅色の線路をすかした透明のものが見えた。