タイムスペース

 電車に乗って2駅先。
 そこそこ都会の商店街が並ぶ。

 そこそこ都会、というのもおかしいけど。

 よく晴れた4月下旬の空。土曜日。端に並ぶ街路樹の木が緑の葉をわんさか茂らせている。

 時候の挨拶に若葉の候と書きたくなる季節。
 風のイメージカラーは緑。
 すがすがしく体を撫で、木々を揺らしている。

 なぜ僕が商店街に来たのかといえば、昨日消しゴムをなくし、家を、学校中を、部屋を探し回った結果なのである。


 商店街の片道を歩きながら書店を探す。
 小学生の頃は、文具は親に買ってきてもらっていたから一人買いは慣れないのである。
 中学の頃は電車の乗り方がわからなかったので自転車で来ていたが。


 幾分歩いたところに書店はあった。決して大きくはなく、小ぢんまりとした店だが、品揃えがいいと評判(だそうだ)。
 一枚の自動ドアを通って中に入る。

 中にはちらほらと本を立ち読みしている人がいた。僕と同じくらいの年齢の人もいる。

 やや涼しい店内に快感を覚えながら文具売り場に向かった。目的のものを探しているとき、ふとあるものが目についた。

 文具売り場と本売り場を分けるように、ガチャガチャが並んでいるのだった。ちいさな子どもが一人、そわそわとそれを眺めている。

 僕も気になって、その黄色い斜体をのぞいてみる。何か面白そうなものはないかと。


 左右に移動していた目が、ぴたりと止まった。


 見覚えのあるものだった。以前、霜月さんが電車の中でくれたもの。

 僕の好きな小説のものだった。


 衝動的に「ほしい」という思いと、財布を探る手。値段はいくらなのかと確かめてみると、

300円。


「あれ?」



 …100円じゃないじゃん。


 僕にキーホルダーをくれたとき、霜月さんは100円だと言った。

 だから僕も次の日に100円を返した。


 どうして嘘なんかついたんだろう。


 君がソンしちゃうじゃんか。


 答えが出ぬまま、僕が数分そのガチャの前でたたずんでいたのも言うまでもない。