タイムスペース

***





「兄ちゃん、寒い…なんで外なんか出るの?」

「昴、あれ見える?」

「どれ? お星さま?」

「あれあれ。あっち側のやつ。なんかすごく明るく見えるやつ」

「えー…見えない」

「ほら、お父さんの望遠鏡! これ覗いてみて!」

「んー…どれ? なんか5個明るいこれ?」

「それそれ。あれおうし座のプレアデス星団っていうの」

「おうし座? 僕の星座!」

「そ。昴の星座。で、そのプレアデス星団ってのが、別名昴っても呼ぶの」

「あれも昴? 僕も昴?」

「うん。どっちも昴」

「じゃあ兄ちゃんは? カナタっていうのは?」

「え、僕のは…星座っていうか、カナタってのは、遠いってこと。あの星みたいにさ」

「僕と兄ちゃん、遠いの?」

「ちがうちがう! 僕らこんなに近いじゃん! ほら!」

「ほんとだー! 僕兄ちゃんに近い! 全然カナタじゃないね!」

「だろ。わかった? あの星を昴っていうんだぞ。覚えとけよ」

「わかったよ兄ちゃん!」




***







「冬の星座だったっけ…」



 カシオペア座みたいな、特徴的な5つ星。


 弟と同じ名前が入っているその星座を、僕はいちばん初めに覚えた。


 おうし座。昴もまた、おうし座だった。

 5月4日生まれだった。



 僕ら兄弟の、思い出の星座だった。僕は昴にそれを見せるためだけに、父に望遠鏡をねだったことがあった。


 図書館で星座の図鑑を借りてきて、昴といっしょに読んだことがあった。



 僕が小1だった頃、昴は4歳。
 二つ、年が離れていた。


 理科でやった星座の勉強。
 昴もやっていたなら、きっと夢中になっていただろう。



 花柄の天井が、僕を見つめ返す。
 過去のことに浸ってないで、さっさと未来を呼べ、と。