タイムスペース

 あの夢はなんだったのだろうか。


 ただの偶然だったのだろうか。

 僕の思いはよそに、電車は朝日の中を走り抜ける。


 気持ちよく晴れた朝の空気が心地よく体に染みわたる。


 上の空な瞬間を味わっていると、ちょうど電車が止まり、あの子が乗ってきた。


 そういえばまだ名前も聞いていない。彼女はずっと僕の中で「彼女」だの「あの子」だのという名称で定着してしまっている。


 彼女は人混みをかきわけて僕のそばまでやってくると、「おはようございます」と小さくあいさつをした。

 あいさつを返そうとして、少し思いとどまる。刹那視線を泳がせ、僕は言った。

「おはよう。あの、突然ですけど、僕らもうタメで話しませんか?」

「! タメですか…! そうですね、そういえばお互い名前も知らないですもんね」

 そう言って彼女はクスリと笑った。彼女はほんとうに笑顔が似合う。


「僕、七瀬彼方。カナタでもなんとでも」

「私はハルカです。霜月遥。ハルカで」

「…って言いながらタメになってないね」

「あっ!」


 顔を見合わせて笑う。そして、やっと名前を知れた。
 霜月さん、か。


「改めてよろしくね!」

「こちらこそ」